002:Chihiro Naito HONE代表:桜井貴斗さん(以下:桜井) SELECT EYE COMPANY代表:鈴木功始(以下:鈴木) UMI calf director:内藤千裕(以下:内藤) 鈴木: 内藤さんはもともと、パルコ内の店舗の店長を務めていました。彼女にUMIの計画に参加してほしいと思い、パルコでNo.1になった絶頂のタイミングで声を掛けました。ただ当時はUMIで何をするのかすらイメージがつかないほど真っ白な状態で、ひたすら夢を語り続け、内藤さんの心を動かしました。 内藤: UMIができて5年になりますが、お話を社長からいただいたのは6〜7年前ですかね。 鈴木: UMIの計画が出た時点から話していました。 桜井: 構想の段階からお話しされていたんですね。 鈴木: 構想の段階では、カフェとヨガスタジオがあるゲストハウスという程度で、洋服を売る予定はありませんでした。途中から洋服も売ることになり、誰が売るのかが重要になってきました。そこで白羽の矢が立ったのが、内藤さんです。 桜井: もともと内藤さんに任せるつもりで声を掛けられたんですね。 鈴木: わざわざこんな場所までお客さまがきてくれるのか?という懸念点がありました。誰ならUMIまでお客さまを呼べるのか、を考えたときに、内藤さんだろうなと感じました。 玉突き事故で店長に 桜井: そうなんですね。内藤さんはご入社されてどのくらいになるのですか? 内藤: 新卒で入社して、この春で12年目になります。 鈴木: セレクトアイの中ではベテランです。 桜井: 最初の着任は別の店舗だったんですよね? 内藤: そうです。入社してから3店舗を経験しています。私が店長を任されたのは、玉突き事故だと思っているんです(笑)。新卒時の配属は、先輩とマンツーマンで仕事をするような路面店でした。お世話になった先輩の退職がきっかけで、2年目にパルコ店の店長をやらないかと声をかけてもらいました。当時は何もできないし何もわからないけど、お世話になった先輩の後を継ぎたいという想いだけで、店長をやってみようと決めました。 鈴木: 通常は店長と一緒に仕事をして学んでから店長になりますが、唯一それがなかったのが彼女です。 内藤: 能力があったとかそういうのではなく、玉突き事故と先輩への想いだけでした…(笑)。 鈴木: 気持ちを強く持って店長を頑張っていたものの、簡単にはうまくいきませんでした。内藤さんが店長になってからどんどん売り上げが落ちていきました。その後、次第に売上を上げてパルコで売上No.1になるということを経験してきた努力の人でもあります。 桜井: 2年目から店長を経験されて、どれくらいうまくいかない時期があったんですか? 内藤: ちょっとどころじゃありませんでした。店舗自体はとても調子のいいお店だったので、その理由もあって店長を任せてもらえたんだと思います。ただ、私が店長になってからは急降下で売上が悪くなり、店舗史上最悪の結果を出してしまったこともありました。当時の私の性格は、思っていることを人に言うことが苦手で、「できない」や「わからない」を言うことができませんでした。わかっている自分にならなければならないと感じていて、迷走しまくっていました(笑)。 桜井: あるべき店長像に囚われてしまっていたんですね。 内藤: そうです。「かっこいい店長像」が私の中にあって、すぐになれるとは思っていませんでしたが、その像に合わない自分は見せちゃいけないと思い込んでいました。 桜井: もともとリーダーシップやトップに立つことは得意だったんですか? 内藤: いえ、私はどちらかというと、リーダーを支える役割の方が多く、一番上に立つのは得意ではありませんでした。 鈴木: わからないことを聞くことができないので、商品の見極めができないんですよ。先輩たちも多少フォローしてくれましたが、商品の発注の際に「これいいよね、何枚にする?」と聞かれると、自分の感性ではなくてどう答えればその人の正解になるのかを考えてしまっていました。 内藤: 当時は、「相手の正解が自分の正解」という考え方でした。 鈴木: 自分でなんでそれがいいと思うのか?を説明できないので、結果がどんどん悪くなっていきました。 内藤: 今は大きく変わりましたが、もともと石橋を叩いて叩いて壊してしまう性格だったので、失敗に対する恐れがとても大きかったです。なので、誰かから引き出した答えが自分の答えだと思い込み、これを繰り返して生きてきたので、自分の「こうしたい」や「好き」が見えなくなってしまっていた時期でした。 「ロボット」から「人間」へ 鈴木: 一生懸命取り組んでいるのに、なぜ売上が上がらないのかが疑問でした。私が直接関わるようになったのはパルコに異動して4年目のころで、それまでは自分1人でやっていたんだと思います。 内藤: もちろん先輩に助けてもらってはいましたが、直接誰かに見てもらっている訳ではありませんでした。 鈴木: 先輩と一緒に仕事をした時期が入社時の1年くらいしかないので、今思うと見よう見まねでやってたんだね。 内藤: その1年ちょっとで教えてもらったことが自分の全てのインプットとしてベースとなり、それからは見よう見まねでやってました。 鈴木: 私が直接見るようになって、見よう見まねだから結果は出ないけど、頑張りたい気持ちはあるんだろうなというのはわかりました。ただ、他店の店長は成果をどんどん上げている時期で、このままだと本人も面白くないだろうし結果は出ないだろうと思いました。そういう状況の中でさまざまなチャレンジをさせて最初に気づいたのは、「彼女がロボットみたいだ」ということでした。 内藤: 「ロボットみたい」と言われたことはすごくよく覚えていて、当時はどこがロボットなのかピンと来ませんでした。「ロボットじゃありません」とか言ったりして(笑)。直接見てもらうようになって最初に取り組んだのは、その日の自分の感情が喜怒哀楽のどれに当たるのかを考えるところからでした。自分の気持ちじゃなくて周りの気持ちや状況を考えることが癖になってしまっていて、自分の感情が考えてもわからない状況でした。これを繰り返してコミュニケーションをとっていく中で、自分の感情が見えてきたという感じです。 桜井: 鈴木社長によって、もともとあった感情と向き合えるようになったんですね。 内藤: そうです。もともと自分は感情の塊のような人間なんですが、自分の気持ちに蓋をして生きてきたので、自分の内面と向き合う良い機会をいただきました。自分のことがわからないのに、仲間や商品のことがわかる訳がないと感じ、自分の軸を持ちたいと思うようになりました。この経験が今の自分にかなり影響していると感じています。 桜井: 軸を作るときに意識したことはありますか? 内藤: まず、自分の思ったことを感じ取って整理すること、それを伝えることを意識しました。 鈴木: オリジナル商品に初めてチャレンジさせたとき、「好きな色に染めてあげるから、好きな色は何色?」と聞きました。彼女は正解を探したんですよ。僕は好きな色を聞いただけなのに、僕が正解を持っていると思ってその正解は何色かを考えていました。当時の彼女は、ブルーのアイシャドウとピンクのチークをつけていたので「ブルーとピンク好きなの?」と聞きました。すると、「好きです」と答えたので、「じゃあブルーとピンクにすればいいじゃない」というエピソードがありました。 内藤: 社長の中で答えがあるのにも関わらず聞いてくださっていると思い込んで、いろいろな質問をしていました。「本当に好きな色でいいんだよ」と言われたときに困ってしまったのですが、これが良くも悪くも良い失敗経験になっています。ブルーとピンク、ベージュの商品が出来上がり、「これで良いのか」と内心とても不安でした。そのときに、『お客さまに商品を届けきることで自分たちの選択を正解にしよう』という言葉をいただき、正解にするために仲間に自分の思いを伝えてお客さまにひたすら届けることをしました。 鈴木: 『正解はないのだから自分で正解にすればいい』とよく言いますが、自分の好きなものは正解にしやすいんです。 内藤: 個人だと大きな失敗になってしまうことも、会社だと1人の力だけではなく周りの人がサポートしてくれる環境があります。「自分で決めたんだから自分でやりなさい」と突き放すのではなく、見守って言葉をかけてくれる環境がすごく安心でした。そして、自分の意思を持たずに選択をすることが、すごく失礼で無責任だということに気づきました。お客さまに喜んでもらいたいなら、自分が本当にいいと思うものを意思を持ってみんなで正解にするべきだと思わせてもらったのが、自分の中で大きな出来事です。 桜井: その感情に気づけたのはいつくらいなんですか? 内藤: いろいろな機会を積み重ねてよりそう思うようになりました。私が今やっているUMIも、パルコの店舗も、全体の60%くらいがオリジナル商品のお店です。そのため、オリジナル商品をたくさん作らせていただいています。「生地はこれがいい」「この色がいい」「この形がいい」と考えても、完成したら思ったものと違ったこともあります。その際は、なぜそうなったのか、どうすればいいのかを考えます。これを繰り返すうちに、どんどん意志がこもるようになっていきました。この経験から、「自分が好き」「自分がいいと思う」という自分の意志を商品にこめることが1番の軸になりました。 鈴木: 内藤さんにUMIを任せてみようと思ったのは、ものを作る経験をすることでものを作る怖さを理解し、それを正解にする訓練をしてきたという理由があります。 内藤: 流行っている訳ではないけど自分のいいと思ったものを形にして、その想いを仲間に伝え、チームが同じ熱量でお客さまに届けていると、気づいたら完売したり、お客様が着て来店してくださったりするんです。世の中がいいと言っているからいいのではなく、自分たちがいいと思ったことに共感して喜んでもらえることの楽しさにも気づくことができました。 桜井: 失敗も含めた覚悟が醸成されていったんですね。 内藤: ロボットと言われていた時期は、「もっと頑張りたい」という想いや「こうした方がいいんじゃないか」という考えを仲間に伝えることが怖かったです。当時の自分にとっては、ちょっとしたことを仲間に伝えるだけでとても覚悟がいることでした。しかし、自分の想いを思い切って伝えてみると、「そう思っていたんですね」と、仲間が助けてくれました。この経験から、人に想いを伝えても大丈夫ということを知りました。また、自分とは正反対の性質の子と向き合うことで、違うからこそ補い合える関係性を築くことができました。私は先陣を切って進むような店長ではないのですが、仲間に助けてもらいながら一緒に成長してきて今があると思います。 「完璧」じゃなくても、いい 桜井: 自立していく過程で心が折れてしまいそうなときはありましたか? 内藤: 自分の思っていることを伝えるということを意識していましたが、相手の考えていることや顔色を伺って言えないこともたくさんありました。ですが、それが原因で問題が起こり、自分が変わらないといけないと痛感しました。仲間に本音を伝えないことで上辺の関係になることが嫌だなと思えば思うほど、相手を尊重しながら自分の思いを伝えなければならないと感じていたんです。仲間やお店と向き合ううちに、自分が変わらざるを得ない場面がたくさんありました。 桜井: 変わらなければならない環境にいらっしゃったんですね。 鈴木: 毎日一個ずつ学びながら「知」を増やしていったよね。 内藤: 自分を知ることの勇気をいただいて、自分らしさを学ばせてもらい、ありのままの自分でも人に必要とされたり人の力になれるということを実感しています。今は、シンプルな自分で人と向き合うことを大切にしていて、自分らしさを感じる場面がたくさんあるので幸せです。12年前の自分が今の自分を見たらすごく驚くと思います(笑)。 桜井: ありのままでお仕事をされているんですね。 内藤: もちろん関わる人によって少し色が変わることはありますが、仕事スイッチみたいなものはありません。お店に立ってお客さまと関わることで元気になります。 桜井: 今、内藤さんが大切にされている指針や言葉はありますか? 内藤: 昔から「自分で正解にする」という言葉は大切にしています。また、UMIというお店は、スタッフの働く形態や年齢、扱う商品など、みんなバラバラです。そんなチームをまとめているので、みんなの個性や持ち味を尊重して引き出すということを大切にしています。また、私は完璧でありたいと思ってしまう性格でしたが、いろいろなことが起こっていろいろな変更をしなければならない環境で、完璧じゃなくてもその時の自分たちのベストだったらいいんじゃないかと思えるようになりました。 鈴木: 1番柔軟性のなかった彼女が、今では1番柔軟性のある人物になったんですよ! 内藤: 完璧はないということを目の当たりにして、どうせやるなら物事を柔軟に捉えて楽しむことの方がいいなというマインドになりました。 桜井: 鈴木社長は内藤さんが変わるだろうなということは感じていましたか? 鈴木: いや、こんなに手強い人はいないくらい手強かったです(笑)。ただ、根性というか自分が言ったことはやる、というマインドはあったので、一度自分を知っていろいろなことが分かれば変わるだろうなとは思っていました。ただ、本当に手強くて、そういう意味ではセレクトアイでNo.1だと思います。 桜井: それだけ成長率もNo.1なんですね。 内藤: ペーパードライバーだったので、車を運転することができないくらい、新しいことに対して恐れを感じる性質でしたが、社長にはやるしかない状況をいつも作ってくださり、「やってみたら案外楽しいじゃん」と思えるようになりました。今では、嫌なことこそやってみると、気づきや楽しさが広がって何かプラスが生まれると感じています。私はどん底のときから会社を辞めたいと思ったことはありません。それは新しい自分を知って、仲間やお客さまとのコミュニケーションからいろんなことを発見して、それが積み重なっていくのが楽しくなっているからだと思います。自分があるようでない、空っぽな人間だったので、社長を含め周りの皆さんに経験から作っていただいていた自分が、今に繋がっていると思います。 桜井: 共感する学生さんがとても多いと思います。やりたいことがわからないと感じている方はたくさんいると思うので、内藤さんのお話を聞いて学生さんはホッとすると思います。 内藤: どん底から変わっていった姿で誰かの勇気になればいいなと思います。 桜井: 今後セレクトアイさんでやっていきたいことはありますか? 内藤: 新たにやっていきたいと思っているのは、わざわざUMIに来たくなるような人や空間を作っていくことです。お店というよりは、気軽に会いに行くことが出来て元気をもらえる場所として確立させていきたいですし、見えないところにいる人までそれを伝えられるようにしたいと思います。また、社会に居続けることで起こる苦しい事を乗り越えて、成長し続ける楽しさを体現し続けていきたいと思います。 桜井: 本日はありがとうございました!